絶唱

湊かなえ著、の「絶唱」を読み終えたので、

レビューをしていきます。

 

【内容、あらすじ】

 

 4部構成になった短編小説で、阪神大震災で心に傷を追ったそれぞれの主人公が、

それぞれの思いを胸にトンガのトンガタプ島を訪れるお話。

 

4章目の「絶唱」、の主人公が小説家で、どのストーリーにも登場する、尚美さんから聞いた話を元に他の各3章のお話を書いた、という設定になっている。

 

 1章目の「楽園」、

 

は主人公が5歳の時に阪神大震災が起こり、双子の姉妹が亡くなるが、

母は自分の体裁を気にする性質で、亡くなった雪絵ではなく、主人公、マリエが死んだ事にしてしまい、マリエは雪絵として生きざるを得なくなる。

 主人公は雪絵として生きる事に自信が揺らぎつつあり、高校の時の松本先生がトンガに行った時のビデオを見ていて、

自分として生きるか、雪絵として生きるか、この楽園に行けば答えが見つかりそうだと思い、同棲している彼氏に黙って、トンガに行く・・・

 

と言うお話。

 

2章目は元マリエの教師、松本先生(理恵子)のお話。

 

理恵子と宗一、は大学時代から付き合っており婚約予定。

そんな中、松本先生は結婚に悩んでおり、トンガを訪れる。

 

宗一、とは大学のサークルを通して出会い、恋人になり、

理恵子は大学在学中に宗一の子を妊娠するが、流産する。

宗一とは別れようと思っていると、大学の先輩の滝本先輩が一度宗一と

ちゃんと話しあうように理恵子の家を尋ねるが、(恐らく理恵子と離れた後、

阪神大震災に巻き込まれて亡くなる)

 

そんな過去がある中、宗一と結婚してもいいものかと悩んでおり、

宗一、もトンガ島に訪れるーーー・・・

 

3章目は、

1章目に出てくる杏子さん、のお話。

杏子さんは大学時代に付き合っていた彼氏との子供ができるが、

彼氏がいい加減な人間だったため、シングルマザーとして、娘花恋を育てている。

が、シングルマザーは辛い事の連続で、

震災の時にボランティア団体の一員として訪れた、トンガ出身の人に温かく接してもらった記憶があり、

もう一度会いたい、と思い、娘を連れてトンガを訪れる。

 

4章目は、

後々小説家になって、各3章を書いた設定の、千晴、のお話。

大学時代の仲がよかった友人、静香が震災で亡くなってしまうが、

仲よかった1人の、泰代、は震災後すぐに静香と千晴が無事かどうか、安否確認の連絡をしたが、

千晴は全くそれがなかったと、泰代に責められる。

何だかんだその件で一悶着あった後、静香、泰代、千晴が三人で泊まった時に歌った歌を書店の前で2人で絶唱して、拍手喝采となる。

 

【感想】

 

1章目の「楽園」、はいい話だとは思ったが、所々設定に難があるように感じた。

いくら母親が体裁を気にする人間だからとはいえ、死んだ娘と生きた娘を逆にして呼ぶとか、意味不明すぎるだろう・・・うーん。と、全くその点に関して感情移入できなかった。

 

同棲している彼氏はいい人すぎてもう・・

何も言わずにトンガに行った主人公を心配して、恐らくトンガに行ったであろう事を予測して主人公の元まで駆けつけるとか・・・

健気すぎる。こんな彼氏欲しいわ、全く。

 

その他要所要所彼氏の裕太の言動が素晴らしくて、ジーンと心が温まりました。

母親からあまり愛情をかけて貰えてなかったようだけど、いい彼氏がいて良かったね、

と思いました。

 

2章目は宗一、の身勝手さに胸糞悪かったです。

サークルで理恵子と宗一は出会いますが、

理恵子がサークルをやめようかと申し出ると、

「俺には理恵子しかいないのにどうしてわかってくれないんだ。他に好きなヤツができたからそう言うんだろう。」

と、理恵子を床に押し倒して首に両手をかけて泣いて怒ったかと思えば、

理恵子が妊娠したら、今はそういう時期ではないから、子供を堕ろして欲しい、と言ったり。

束縛が激しい上に自分勝手で何事にも否定的で上から目線、という正直最低野郎でしかないのに、何でそんなのと少しでも結婚しようと思えるのだろうか、と主人公に普通に疑問に感じました。(結局婚約は取り消しますが)

宗一さん、が理恵子が好きな理由はよくわかりましたけど。

 

「理恵子は自分では気づいていないかもしれないけど、欲しい時に、欲しい言葉をくれるんだよ。なんか、しんどいなって思う一歩手前で、最近疲れてる?少し休んだ方がいいよ、って言ってくれたりするの、誰でもできる事じゃないと思う。普段からちゃんと私のこと見てくれてるんだ、って嬉しくなるもん。」、

という友人のさきちゃんの言葉や、

「あいつの欲しい言葉は理恵ちゃんの口からしか出てこないんだ。」

という所。

 

なるほどな、と思いました。

宗一にとって一緒にいて居心地がいい、という事なのだろう。

理恵子にとっては言いたい事が言えなかったり、居心地が良い、とは言えなさそうだけれど。

 

3章目の杏子さんの話は、何というか・・・

母として頑張ってたからたまには羽目を外したくなった、とか、

うーん・・・・

ちょっとノーコメントにしとこう。

 

4章目の話は泰代の友情の押し付け感がちょっぴり苦手でした。

自分は友達思いで正しい行いをした、という感じが。。

震災になって、自分の事で手一杯だったのだから、しょうがないでしょう・・

そこをどうこう言っても・・

 

全体的に暗い話だったのですが、湊かなえの文章力と続きを気にならさせる話の構成力で読み切った、という感じです。

 

何で震災に会った人たちがボランティア団体を通して、等、様々な理由が会ったにせよ、それぞれトンガに訪れるんだよ、

あまりにも遠すぎるし、設定に無理がありすぎるでしょう( _ _;)

と思いましたし、港かなえは好きですが、そこまでトンガ、っていう設定も

どうも、あまり好きにはなれませんでした。

南国の島、ってものに全然良さを感じないからなあ。

私の感性が乏しいだけかもしれませんが。

 

港かなえ作品の中で評価をつけるなら、私的には5段階評価中の3、か、2.5、

くらいでした。

 

同時期に読んだ「花の鎖」、の方が個人的には良かったです。